2016年8月1日月曜日

ぼくの物語創作理論(?)ーー物語のTone


物語(文学作品)にとって、大切なことは Tone だという考えが閃いたので記しておこう。これは物語と音楽の交錯する創作理論らしきものだ。


Tone は、「音色、音、声の調子、楽音」といった意味をもつ。単純に「音楽」と言いたくもなるが、やはり「音楽」そのものとは区別したい。

僕らは、音楽に対して、それぞれの性格を印象づけられる。ベートーヴェンの交響曲、と言われたら壮大で力強い、拳を振り上げるイメージが湧くかもしれない。コレッリの作風であれば、どれも整って清澄である。バッハのゴルトベルク変奏曲なら、暗いリリカルなムードと幾何学的な印象を浮かべたりもする。

これらと同じように、物語は読み終えられたあと、たとえば数年経ってさえ、なにか音楽の鑑賞後にも似た印象、Tone を残す。それをあえて Tone と呼ぶのは、「物語が残すもの」が残響のようで、形のないものだと思えるからだ。

たとえば、シャーロック・ホームズのお話は、シャーロキアン(詳しい愛好家)でもないかぎり、ひとつひとつの推理やトリックや事件を覚えていなくても、颯爽とした変わり者の探偵の姿、独特のかっこよさを刻印するだろう。

そういう読後感、あらすじやキャラクターの名前や特徴、舞台となった場所の知識などを忘れかけたあとにも残る読後感を Tone と呼ぶ。そして、この Tone こそが物語にとって一番、大切なものだと僕は思う。

だから、物語を書くひとは、細部の設定やあらすじより、Tone をどうするか構想(空想)するのが最初に来てよいと思う。もちろん、Tone は受け手によって異なるだろうが、それでも書き手が確固たる Tone を定め、全体を貫いて響かせる、ということがその作品の基底を置く。そんな風に考えてみる。