2016年6月2日木曜日

雨と木曜日(85)

2016.6.2.


木曜日更新のエッセイ。
今回は、夏と冬の札幌〜本と珈琲(を断つこと)〜『素晴らしきソリボ』。


札幌には夏と冬しかない、としばしば思う。「四季のはっきりした北海道」とはよく言われるし、春と秋はとても短いけれど、大切な節目だということもわかる。それでも、夏日かと思ったら、東京の冬くらいにまで冷える五、六月は凄いな、と自然に感嘆する。そのせいなのか、今頃が季節の変わり目、体調を崩しやすいのかもしれない。四日間ほどつらかったが、走り抜けた五月の疲れが抜けるかな。この北海道ならではの、季節の疾走感は好きだ。


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珈琲を二日断った。ほんとうは休琲日をきちんきちんと設けたらいい……と何度もこのコーナーで書いている気がするけれど、朝の珈琲は気持ちがよいし、つい気分転換にコーヒーと相成ってしまう。そうだ、「本と珈琲」というフレーズはキャッチコピーにも、おしゃれな休日の過ごし方にも、趣味の良さにも使われるようだけれど、僕は「本と珈琲」が大好きなのに、併せて楽しむとあっという間に過剰な集中力の高まりでまいってしまう。

スタンドで買ったチコリコーヒー
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『素晴らしきソリボ』は第二回日本翻訳大賞にも選ばれた作品。クレオール文学、クレオール論の泰人パトリック・シャモワゾーの小説だ。人前でのおしゃべりの技量が抜群だった、口承文芸の担い手でもあるソリボの死に始まり、その死の不透明さをめぐって最後まで口承の語りが優位に立つ。警察が「真実」を追うが、それは文字文明のやり方であって、それに馴染まぬ証言者たちとのやりとりのなかでいくたびも挫折する。言語の越境×口承対文字の複雑な主題。


【書誌情報】
『素晴らしいソリボ』、パトリック・シャモワゾー、関口涼子/パトリック・オノレ訳、河出書房新社、2015