2016年3月26日土曜日

【本の紹介】『夜間飛行』サン=テグジュペリ

『星の王子さま』で有名なサン=テグジュペリが31歳の時に出版し、彼の作家としての名声を高めた詩的で思索的な作品。文壇の重鎮アンドレ・ジッドが序文を書いて、高く評価した。


この本は、軽飛行機での郵便を迅速におこなうために、夜間の飛行に挑戦するパイロットと事業所の物語。パイロットはそれぞれの運命を感じさせる夜間飛行で、安心できる家を離れ、街の灯を海の底のように見下ろし、南米大陸を縦断、ヨーロッパへも飛んでゆく。

嵐の危険、荒天による計器も見えないほどの真っ暗闇での飛行に焦点が絞られ、それを乗り切ろうと戦うパイロットたちと、事業所の主、野心的で冷静で、人間味をもちつつも押し隠すリヴィエールが主役。
「われわれは、永遠なるものであろうと願っているのではない。そうではなく行動やものごとが突然意味を失う事態を目にしたくないと願っているだけなのだ。」(リヴィエールの台詞) 
リヴィエールは航空郵送事業に果敢に取り組むが、それが成功するか、見極めはまだつかないし、本文に直接は描かれない政治的な問題も背後にあるらしい。それでも、彼の生への問いと哲学は、「永遠や確固としたものを築けなくとも、未来はわからなくとも、前へ進み続けよう」ということだ。
勝利。敗北。そうした言葉はおよそ意味をなさない。生きることはそうした観念の足元で、すでに新しい観念をかたちづくりつつある。[中略]ものごとが進み続けることこそが重要なのだった。
そして、その結末は……(読んでのお楽しみ)。

解説にあるように、この物語の時代、1920年代は夜間飛行は試験的で、危険を伴うものだった。1930年代になると、飛行機の性能や飛行の安全性は高まるが、その端境期に書かれた小説である。

背景や思想の説明が多くなってしまったが、訳者の二木麻里さんが賛嘆するように、全編が詩的な雰囲気に包まれ、言葉や文章は切り詰められ、構成も効果的に練られている。
読者が文と文の間に不思議な空隙のようなものを感じることがもしあるなら、その印象は正しい。(訳者解説)
事実、たくさんの文章を削って推敲した跡があると言う。

晩年の『星の王子さま』へと続く「小説飛行」の離陸を果たした、自身パイロットでもあり作家でもあった31歳のサン=テグジュペリの夜の歌である。