2016年2月2日火曜日

【書評】國分功一郎『来るべき民主主義』


哲学者、國分功一郎による民主主義論。おもしろいのは、小平市の住民投票をケーススタディにしながら、思考を一気に飛翔させ、政治哲学を背景に、民主主義の新しいヴィジョンを語る、という構成だ。バランスがよい。

まずは、本の三分の一ほどを割いて小平市で、都が道路を敷設する計画を押し通そうとし、市民に親しまれた雑木林を破壊し、住民に立ち退きも要求する、という社会問題を説明する。著者は、自ら住民投票の実現に向けた運動に参加する。

この体験を踏まえ、いくつかのポイントを整理しつつ、著者は現場の感覚から政治哲学へと飛翔し、次のステップに進む。

そこでは、「主権=立法権」という従来の政治哲学が検討し直される。実は、立法権をもつ議会よりも、官僚や役所といった「行政」そのものが現実にはしばしば強い力を行使する。その行政に、国民の参加する余地が少なすぎることが最大の問題点だ。(他方、立法権であれば、選挙を通じて、議会の成員を選べるわけだが)。

このあたりは、『近代政治哲学』(同じ著者によるちくま新書)でも同じ思考がより哲学史に即して語られており、照応する。ちなみに、この『近代政治哲学』は、國分さんの本のなかで僕が一番おすすめなもの。

さて、それゆえ、行政に参加できる制度をいくつも立案し、実現させてゆくことが、「民主主義」をおこなっていくプロセス、終わらないプロセスなのだ、とデリダを引きながら述べられる。それが本書のタイトル「来るべき民主主義」(デリダの言葉)ともなっている。

【書籍情報】
『来るべき民主主義』、國分功一郎、幻冬舎新書、2013
『近代政治哲学』、國分功一郎、ちくま新書、2015