2016年2月18日木曜日

【本の紹介】旅する写真家、長倉洋海の世界「戦争からひとの笑顔へ」


世界各地をめぐって、紛争地からアマゾンまで写真を撮り続けてきた長倉洋海さんの『私のフォト・ジャーナリズム』を読む。

27歳のとき、時事通信社を辞めてフリーの戦場カメラマンになる。ずいぶん慰留され、諫められもしたが、若き決意は変わらない。

はじめは南アフリカへ渡った。長倉さんが撮りたかったのは「戦争」の写真で、「世界をアッと言わせる」ような、悲惨なもの。ここから紛争地を転々とするが、資金もないし、なにより思うような写真が撮れない。

ところが、中南米のエル・サルバドルで、現地のひとと交流しながら、内戦を撮るうちに次第に考えに変化が訪れる。やり方も変わる。

まず、事件が起きてから現場へ向かうのでは遅いということ。よい写真を撮るためには、革命や転換が起きる前から、現地を取材しなければならない。また、現地のひとと交流することで、そこに住むひとの日常、生身を写せる。こうして、ひととのつながりが生まれ、取材で通うたびに、再会を喜ぶ。

この後、混乱のアフガニスタンでソ連軍を撃退する同世代の戦士マスードに密着して、厳しい生活をしながら取材する。マスードとの友情、その思い出はかけがえのないものになる。

この本の副題は「戦争から人間へ」だが、長倉洋海さんはこうして、単純にピクチャレスク(いかにも絵になる)な一枚を目指すことから、世界各地のひとびとと交流しながら撮ること(それを通して戦争の実情も写す)に方法を移してゆく。

そのなかで、アマゾンの賢者アユトンと出会ったり(僕の好きなアユトンを取材した本のレビューはこちら。)、たくさんの笑顔を集めた写真集『きみが微笑む時』も出版。


こちらの本で長倉さんは、いくつもの悲惨な戦場を回ってきて、心に残っているのはとりわけ子どもたちの笑顔だ、と結んでいる。

【書籍情報】
『私のフォト・ジャーナリズム』、長倉洋海、平凡社新書、2010
『きみが微笑む時』、長倉洋海、福音館書店、2004