2016年2月13日土曜日

【本の紹介】世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉


「世界でもっとも貧しい大統領」として、ライフスタイルや言動が脚光を浴びた、元ウルグアイ大統領、ホセ・ムヒカのかんたんな伝記にして名言集。

ムヒカ大統領が注目されたのは、2012年にブラジルで開かれた「持続可能な開発会議」での8分間のスピーチだった。

ムヒカ「午後からずっと話されていたことは、「持続可能な発展と世界の貧困をなくすこと」でした。けれども、私たちの本音は何なのでしょうか。現在の裕福な国々の発展と消費モデルを真似することなのでしょうか。」

ノーネクタイにシャツというラフな出で立ちで、(ムヒカは議員時代からずっとノーネクタイだった)会議の主旨に疑問を投げかける。

「質問をさせてください。ドイツ人が一世帯で持つ車と同じ数の車をインド人が持てば、この惑星はどうなるのでしょうか。…(中略)…西洋の富裕社会が持つ傲慢な消費を、世界の70億〜80億の人ができると思いますか。そんな原料がこの地球にあるのでしょうか。」

ムヒカ大統領はこのとき、「巨大な危機問題は、環境危機ではありません。政治的な危機問題なのです。」と述べている。つまり、グローバリゼーションと超消費社会をコントロールできない政治の危機なのだ、と。

「発展は人類に幸福をもたらすものでなければなりません。愛を育むこと、人間関係を築くこと、子どもを育てること、友達を持つこと、そして必要最低限の物を持つこと。」

これが、ムヒカ大統領が小国ウルグアイのトップとして、世界に名前を知られるきっっかけとなるスピーチだった(webでも取り上げられている)。

ムヒカ大統領は、言行一致で、首都モンテビデオ郊外の農場に暮らしている。質素な家で、財産と言えば、1987年製のフォルクスワーゲン・ビートル。大統領官邸には住まず、愛車を自分で運転してどこへでもゆく。

街のなかの大衆食堂でも食事をするし、妻とビートルで走行中、ヒッチハイカーを拾って楽しく会話したこともあるという。それはすべて、大統領は大多数のひとびと、つまり庶民と同じ生活をすべき、という信条から出ているという。

「貧乏とは欲が多すぎて満足できない人のことです。」
「私は、持っているもので贅沢に暮らすことができます。」
「質素は、"自由のための闘い"です。」
「物であふれることが自由なのではなく、時間であふれることこそ自由なのです。」

生きる時間を持つことが大切だと説くムヒカは、自らトラクターを使って、家庭菜園をしている。それは、大統領になる前から変わらない生活だそうだ。

こう紹介すると、お人好しまたは聖人君子かと思われるかもしれないが、さにあらず。その背景には、14年間の獄中生活を含む、若き日の凄絶な政治闘争があり、また、大統領就任後も、ぞんざいな口の利き方による失言問題もあった。

本書の後半では、ムヒカ大統領をそうした側面からも描き出し、単純なヒーローではなく、時代と人生を背負った厚みのある人間として描く。それが彼の哲学を作った。それにしても、表紙のよい笑顔。

【書籍情報】
『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉』、佐藤美由紀、双葉社、2015