2015年8月20日木曜日

雨と木曜日(59)

2015.8.20.


今回は、フライ返し〜SUMMER BLEND〜須賀敦子『ヴェネツィアの宿』。


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フライ返しを買った。100均で。なんのことはないけれど、毎朝、フレンチトーストを焼く。そのとき、卵と牛乳に浸す菜箸で、そのままひっくり返していた。パンは卵でたぷたぷになってときどき破れやすくなっているので、お箸でひっくり返すと「あっ」ということもある。たいていはうまくいく。だが、たまにたっぷりいい具合に染みこんだときに失敗する。そんなことが数ヶ月、続いてフライ返しにゆきついた。道のり、長かった。

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りたる珈琲の豆は、わりとよく使わせてもらうのだが、「夏のブレンド」が出ている。SUMMER BLEND と紺地に白でスタンプが押してある。おしゃれ。そういえば、"RITARU COFFEE" が正式な表記になったのかもしれない。もう3年以上のつきあいがあるお店だが、ブランドをきっちり打ち出すことにコツコツと努めており、"O"の下に横線が入ったり、なにかとこだわりがある。札幌の夏を惜しんで、夏のブレンドを落とした。

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『ヴェネツィアの宿』。須賀敦子さんのエッセイ・シリーズ。このたびも、死と別れ、日常のなかに潜む無常、それらが波打つ。夫、ペッピーノ(イタリアで結婚)の若くしての死のシーン。オデュッセイアからの引用。アキルレウスの言葉。老人になって自分の人生にある程度、満足を覚えたひとが回顧録を書くのとはちがう、いま、道のりの途上にあり、どこか途方に暮れて立ち尽くし、過去にじっとまなざしを注ぐ、そんな吟遊詩人の心。


【書籍情報】
『ヴェネツィアの宿』、須賀敦子、白水uブックス、2001