2015年8月2日日曜日

【古楽ラノベ】こがくりお〜第十一幕「恋バナ☆ルネサンス」

第十幕「フローラ先生のお見合い」よりつづく。



あらすじ:俺は佐藤りゅーと。ゆる古楽部を立ち上げた大学生だ。ルネサンス合唱部を見学ついでの買い出しからの帰り道、原田フローラ先生と山中タリスの恋バナに花が咲く。


***

「フローラ先生は理想が高いんだよね」と山中タリス。
「そうなのかな〜」とフローラ先生は照れている。
意味のわからないお見合い話を聞かされたあとだから、俺も混乱しながら尋ねた。
「年収1000万とかですか?」
「ううん」
「ゴールドマントランペットみたいな、有名企業に勤めていないとイヤ!とか」
「そんなことないよ」
そこで、俺は冗談半分に言ってみた。
「やっぱり古代ローマより続くリベラルアーツを七学芸修めたひとでないとダメ、なんてね」
「それは必須だけど…」
必須なの。山中タリスもしきりにうなずく。
「そうですよね〜わたしも思いますもん」
ふつう思わないだろ。山中タリスはなおも言う。
「ボエティウスを読まないひととはつきあえないですよね」
「そうね。『音楽教程』は読んでてほしいわ」
と、フローラ先生も同意。一応、尋ねておこう。
「ボエティウスって誰ですか。コンサルのひと?」
「りゅーとくん、ほんとにおもしろいよね!」
タリスが喜ぶ。いや、これ冗談で言ってるんじゃないんだけど。フローラ先生が答えてくれた。
「ボエティウスは中世初期の著述家で、『音楽教程』を書いたの。中世のムジクス(音楽家)たちはみなボエティウスに学んだのよ」
「ふうん」
なんだか雲行きが怪しくなってきた、この話、と俺は直感した。山中タリスがはしゃいでいる。
「わたしもいつかディアペンテ(完全五度)みたいな恋をしたいな」
「タリスちゃんなら、恋のユニゾンだよ」
なんの歌謡曲。俺はそろそろ切り上げるために話を戻した。
「で、フローラ先生の理想が高いってのは…?」
「わたしね、万能人しか好きにならないの」
「は?」
「ダ・ヴィンチとかアルベルティみたいな。建築と数学と音楽と絵画と……多才で教養の深いひと。でも、なかなか出会えないのよね」
山中タリスが夕焼け空を見ながらつぶやく。
「あ〜あ、先生、ボッティチェリの描いたアプロディテみたいに綺麗なのに、見合うひとがいないの残念だよね」
「それは言い過ぎだよ、タリスちゃん」
言い過ぎだろ。そこで、いきなり俺に振るタリス。
「あ、そーだ。りゅーとくんは、どういうタイプが好みなの?」
「え」
意表を突かれた俺は超有名な女優の名前を挙げた。
「誰それ」とタリス。
「クラスの子かな?」とフローラ先生。
もういいです。こんな恋バナ聞いたことねーよ。。。