2015年5月6日水曜日

【場面】手を離した蟻

とある芸術家の方と話をしていた。

「象徴的な話になるけれどね」と断って、「中学生の頃に浜辺で蟻をじっと見ていたんだね。棒きれを右手で持ち上げると、低い方から蟻が上がってくる。手元まで来ると、左手に持ち替える。そうすると、ちょんちょんと、触覚を動かして、また手元の方まで上ってくる」

「それをくり返していたら、ぱっと蟻が手を離したんだ。そして、どこか向こうへ去って行った。そのとき思ったよね、こんな小さな棒きれを行ったり来たりする世界から、手を離せば、広い世界が開けているんだって」

そうして、その方は中学を卒業すると同時に親元を離れたそうだ。