2015年4月26日日曜日

【本と珈琲豆】『何もかも憂鬱な夜に』


中村文則の『何もかも憂鬱な夜に』。

物語は三つの線をちぐはぐに辿る。ひとつは、施設で育った主人公の幼少期から青年時代。ふたつは、主人公のいまの迷い。みっつは、死刑囚の二十歳に満たない少年と、刑務官である主人公の対話。

主人公は、奇妙な性と死の原風景をもち、育つ。友人が救いをなくして自殺する。その友人から「お前もこっち側の人間だ。」と言われた記憶をもつ主人公は、いくつかの思い当たりから、自分もいつしか人生をおかしくするのでは、という観念にしばしば憑かれる。

それから、主人公は自暴自棄のように、わけがわからなくなる。その後、刑務官の職務として向き合う、死刑が決まった未成年に語りかける、ラストシーン。

巻末の解説は又吉直樹さんが書いているが、拙いような文章ながら、切々とした引用がこの小説を読ませたくさせる。それから、中村文則さん自身によるあとがきは、「水」を物語や文体に溶けこませるように書いた、と告白し、「共に生きましょう」と結ばれる。

【書誌情報】
『何もかも憂鬱な夜に』、中村文則、集英社文庫、2012(単行本は2009年刊)