2015年3月19日木曜日

【本と珈琲豆】『被災弱者』岩波新書

〜【本と珈琲豆】は本の紹介コーナーです〜


本書は、宮城県を中心に被災地の現状を現場から伝える。著者は震災後、被災地へ何度も足を運び、丹念な取材をするとともに文献を調べ、また情報公開請求を利用して本書を仕上げた。2015年2月の刊行。



なお、『被災弱者』のタイトルだが、被災した強者もいる、彼らとの分断が……といった話は出ない。あくまで、被災地のとりわけ脆弱・困難な部分に目を向ける、という意味のようだ。

まずは、ボランティア活動の紹介から。ひとりでFacebookや携帯を活用しながら、仮設住宅を回り、困ったひとがいれば助けにゆくというボランティアを続ける人物、また、チーム王冠という宮城県を中心に地道な活動を続けるボランティア団体の活躍を描き出す。そこには、平等を原則として制度を通さなければ市民を手助けできない行政では、手の届かない支援がたくさんある。

このほか、本書は被災地の子供たち、助成金ほか制度の不具合、農家や商店の再建、復興事業費の抱える問題など、目配りが広く行き届くが、とりわけ住まいの問題を重要なものとして取り上げる。大きく分けると、「プレハブ仮設住宅」「みなし仮設」「在宅被災者」「災害公営住宅」の4つがある。それぞれに問題を抱えている。

プレハブ仮設では、冬の水道管凍結や暖房の弱さが指摘される。また、結露やハウスダストからカビが生じやすく、アレルギーや肺炎を引き起こす、といった問題がある。

みなし仮設は、既存の住宅を「仮設住宅」とみなし、一時的に行政が借り上げて家賃を負担する住宅である。ここでも、制度上、転居がしにくい、家族形態が変わると住まいが合わなくなる、2015年度末に入居期限が来るので、それ以降の家賃や住まいがどうなるか見通しが立たない、という問題が切実である。

在宅被災者は「家が無事だったのだから」と、支援からこぼれ落ちやすいが深刻な問題を抱える。1階が浸水したときのまま放置されていたり、障害や老老介護といったさまざまな事情から家を出られず、やむなく劣悪な居住環境に留まっているケースもある。周囲が避難、転居してゆくことで、世帯が孤立し、自治会の機能が弱体化し、ボランティアが補うケースもある。

災害公営住宅は、いまニュースで取り上げられることが多いようだが、建設の途中である場所が多い。単に戸数や完成の速さが報じられている印象を僕は受けるが、ほかの問題が本書で指摘される。たとえば、いままで住んでいたコミュニティから離れてしまうこと。阪神・淡路大震災でも災害公営住宅からの孤立死が相次いだ。また、単に高台に建設しても商圏や生活環境が整わない、建設した戸数は多くても居住率が上がらない、など。

こうした「住まい」の問題はとても重要で、解決も難しいことを実感させられる。他方、ふだんよく聞くのは「心のケア」だが、これも単にカウンセラーを配置する、といったケースは本書ではほとんど扱われず、むしろ、ご近所で会話をしたり外に出て交流できる「地域のコミュニティ」作りが課題である、というのが現状のようだ。

具体的かつ冷静、丁寧に厳しい状況を描きながらも、希望のまなざしを感じさせる良書でした。

【書誌情報】
『被災弱者』、岡田広行、岩波新書、2015

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