2015年3月29日日曜日

【俳文】札幌便り(29)




猿田彦珈琲飲んで山笑う

恵比寿に本店を構える「猿田彦コーヒー」の深煎りを淹れる朝、白い山にも青みが差す。



三月のなにかが光る雪野原

残雪は土を覆えども、そのうえに光り輝くものはたしか。

いつからか氷の破(や)れた池に鴨

北海道では冬にいなくなる鴨(「鴨」は本来、冬の季語)。春になれば、本州の方から帰って来る。


春の雪スノードームのなかの夜

ひっくり返したスノードームのなかを歩くような。

風雪に肩すくめるも春コート
白い息春シャツを着て大通

風花のなかも、曇りがちの大通公園でも、春の装いを見かける。

すずかけの実に解けさうな春帽子

すずかけの実はまん丸く、ぶらさがっている。ちょこんとかぶった雪は帽子のよう。

春雨に霙混じりで濡れ鼠

冬には傘のいらない札幌も、春先の雨にみぞれでびしょ濡れになる。傘を持ち歩かなければ。

啓蟄や顔出す土のふうわりと

虫が出ずると言われる啓蟄の頃にようやく土が顔を覗かせる。雪の下には、秋に落ちた枯れ葉がそのまま保存されている。

雪だるま日向ぼっこをしているの

だんだん解けてしまうよ。


白樺の枝が落ちたり名残雪

ぽっきりと2メートルはあろうかという白樺の枝が落ちている。朽ちゆくもの、解けゆくものの風情。

草の芽や大雪像が夢の跡

「雪まつり」の大雪像がみな、砕かれて解けかかっている春の大通公園。

雪を払い花に変わらむ春疾風

春疾風のような飛行機で札幌から東京へ。

鶯の初音に迎えられてここ

帰京してすぐに鶯を聴いた。これこそ春告鳥(はるつげどり)、と感じ入る。

まばゆさにまなこ細めて草若葉

こちらの季節は光があふれ始める。小川もきらきらと日の光をまき散らす。

ヒヨドリのやたら集まる桜かな

八重の山桜はすでに満開。十羽ものヒヨドリが鳴き交わし、花びらをつついている。蜜を吸っているか。


橋のない川にかかりな白木蓮

小さな、暗渠にされてしまいそうな川の岸辺に白木蓮。鳥が舞い降りるように白い花びらを散らす。「橋のない川」は同名の小説をふと思い出した。

雪垣を解くか札幌しばし待て

そろそろ囲いを外している頃だろうか、札幌。半月もしたら帰る。待っていてほしい。