2014年11月21日金曜日

【ご報告】本のカフェ第12回<特集 池澤夏樹>

日時:2014.11.15. 14時ー17時
場所:北海道立文学館ロビーの喫茶店オアシス
参加者10名と司会の木村。


今回の本のカフェは、今年(2014年)8月に道立文学館の館長に就任された、多彩な活躍を続ける作家、池澤夏樹さんに焦点をしぼって本を紹介してもらいました。

かんたんな案内のあと、自己紹介タイム。今回のお題は「移住してみたい土地」。旅と移住をくり返す池澤夏樹さんにちなんだテーマです。「ロンドン」「ハワイ」「スイス」「沖縄」「アイルランド」「東京」「(札幌の)中央区山鼻」といった土地が並びましたが、とりわけハワイが人気でした。3名が移住したいそう。池澤夏樹さんの著書にも『ハワイイ紀行』がありますが、なるほど、魅力的な土地のようです。


紹介タイムでは、はじめに僕の方から池澤夏樹さんの概説をしました。1945年、帯広生まれ。幸福な幼年時代だったとのちに振り返る、6歳までをこの土地で過ごす。その後、東京へ出るが、27歳でミクロネシアへ旅をしてから、旅と移住、そして地方での生活を愛するようになる。ギリシャに3年(2年半か)住み、沖縄、フランス、現在は札幌に住む。

1988年、『スティル・ライフ』で芥川賞を受賞。ドライなロマンティシズムを感じさせる作品。1993年には『マシアス・ギリの失脚』という長編小説で谷崎潤一郎賞。エッセイ、ノンフィクション、児童文学、エンターテイメント小説といった多彩なジャンルを書き綴るほか、『世界文学全集』を編集。現在は『日本文学全集』を編集し、刊行し始めるところ。

旅する体力、取材の忍耐力、また、文体も書く量もヴァイタリティとエネルギーにあふれている。どちらかというと無造作に書き下ろしていくスタイルをとる。だが、一文一文に無駄がない。自然の大きさと人間の小ささ、限界といったものをテーマに、幸福と希望を感じさせる文学を生み出し続けている。


さて、概説が終わると、紹介者さんが『池澤夏樹の旅地図』と『パレオマニア』を紹介してくれた。『旅地図』からは、エッセンスとなる池澤さんの言葉を次々と抜粋。「自然そのものではなく、自然とひとの暮らしに興味がある、素人文化人類学」「文化は人間を通して土地が自分を表現したもの」など。パレオマニアとは、「古代妄想狂」(誇大ではなく)であり、大英博物館を起点に数々の旅がくり広げられる。重要なところを押さえた紹介でした。


次の紹介者さんは、『静かな大地』。朝日新聞に連載されたのち、大幅に加筆された小説。かつての北海道を舞台に、アイヌの民謡や神話、差別をテーマとする歴史小説で、虚実ないまぜである。明治に静内へ入植した男が、波瀾万丈の末、没落していく様を記す。展開のスピードと波乱で読ませるエンターテイメント。小説であるにもかかわらず、最後に付いている(作品内の)年表が面白く、どこまでが史実か、著者にもわからなくなったそう。


ここまでで90分。この後、90分のフリータイムとなり、円卓のあちらこちらで談笑が始まった。池澤夏樹さんの生活スタイル(旅と執筆)に憧れる、という声もあり、他方、まったく関係のない漫画(『ジョジョの奇妙な冒険』)の話で、作者の荒木飛呂彦さんはアンチ・エイジングの顔をしている!と騒いだり。札幌の歴史の話、豊平がスラム街だった頃の史話もありました。


盛会のうちに閉じられたと思います。二次会は近くのトオン・カフェへ。1人欠けて、10人でゆき、ふたつのテーブルに分かれてあれこれ盛り上がりました。夜ご飯を食べるひとも多くいましたね。19時頃、解散。


みなさま、ありがとうございました。道立文学館でお世話になった副館長の谷口様、融通をきかせてくれた喫茶店の女主人にもお礼を申し上げます。これからも、読書を通じた交流の楽しみが広がりますよう。

主宰・文責 木村洋平