2014年7月18日金曜日

シエラレオネの主婦

9.11、世界貿易センターが崩れ落ちて間もない、英国BBCラジオ。
電話によるリスナー参加コーナーにて。

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シエラレオネ人の主婦「テロ世界戦を終結するために決定的な方法をミスター・ブッシュに提案したいと思います」
キャスター男「ほう。その方法とは?」
主婦「それは、オサマ・ビン・ラディン氏をアメリカ合衆国の副大統領に任命することです」
キャスター男「………」
キャスター女(あわてて切り出す)「どうしてその方法が良いと思うのですか?」
主婦「なぜなら、この方法は内戦を止めるためにシエラレオネで実施されたことで、大虐殺の首謀者で、何千人もの私たちの子供の手足を切った反政府ゲリラのボス、フォディ・サンコゥを副大統領に祭り上げたのは他でもないアメリカなのです。そのお陰で私の国では今、武装解除が始まろうとしているのです」
キャスター男「……。あっありがとうございました。次のかたに行きましょう……」

このシエラレオネ人主婦は、もちろんミスター・ブッシュへの誠実な提案をしたのではない。世界の弱者アフリカが、強者アメリカに放つ、非常に崇高な"ブラック"・ジョークであったのだ。

一部、省略したが、伊勢崎賢治『武装解除』よりの引用。p.82-83
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 西アフリカの小国シエラレオネでは十年間の内戦で、5万とも50万とも言われる死者が出た。三つ巴どころではなく、複数の勢力が入り乱れての紛争だったが、直接的な指導者はフォディ・サンコゥであり、彼の率いるグループは数千人の子供の手足の切断や、少年兵を使うなどの残虐行為を働いた。そこへアメリカが介入し、フォディ・サンコゥに異例の恩赦(国連も躊躇したが、是非の判断を保留した。)と特権(副大統領、ダイヤモンドの発掘権)を与えて、政府と武装勢力の和解をはかり、「和平」を実現した。
 
【書誌情報】伊勢崎賢治、『武装解除 紛争屋が見た世界』、講談社現代新書、2004