『緑のハインリヒ』という19世紀ドイツの小説に、幼いハインリヒが「プンパーニッケル」ってなんだろう?と疑問に思うシーンがある。彼は、その音の響きだけを知っていて、どんなものか空想するのだが、実際にはライ麦をふんだんに使ったパンだった。僕はそれを読みながら、「プンパーニッケルってどんなパンだろう……」と、第二のハインリヒになって、あれこれと想像を膨らませていたが、おととし、札幌のパン屋で見かけて安堵した。
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屈折率
七つ森のこつちのひとつが
水の中よりもつと明るく
そしてたいへん巨(おお)きいのに
わたくしはでこぼこ凍つたみちをふみ
このでこぼこの雪をふみ
向ふの縮れた亜鉛の雲へ
陰気な郵便脚夫のやうに
(またアラツデイン 洋燈(ラムプ)とり)
急がなければならないのか
ひとつの詩がぱっと目に留まる。どれもいい、言葉の音だけで……満たされる。宮沢賢治の詩集。新潮文庫は栞の紐つきで、詩の選び方も好き。
【書誌情報】新編 宮沢賢治詩集、天沢退二郎編、新潮文庫、1992