2014年4月18日金曜日

【ご報告】本のカフェ第三回@札幌(カフェ・エスキス)

 2014年4月17日(木)、札幌は円山のカフェ・エスキスで3回目の本のカフェが開かれた。時間は18:30〜21:30。人数は7名。店内は照明をおさえて、穏やかで静かなムードのなか、自己紹介が始まる。音楽はマスターに頼んでダウランドのリュート曲をかけていただいた。

ワタリガラスの絵葉書もみえる

 一冊目は、星野道夫『森と氷河と鯨』。アラスカの写真集でもあり、アメリカ先住民の言葉と著者の体験談が綴られる。副題は「ワタリガラスの伝説を求めて」。ユーラシアと北米に分布するワタリガラスについては、各地に伝承が残されている。紹介者の目には、アラスカの自然を愛して伝承を求める著者は、目に見えない神話の世界とこの世界をつなぐ鳥のように映る。冒険中に命を落とした星野さんは「最後にワタリガラスと一体になったのではないか」と結ぶ。

よしもとばななについて

 二冊目は、よしもとばなな『王国その3 ひみつの花園』。ばななさんは目に見えないものの価値を一貫して大切にし、幽霊や死後の世界の話をするのが好きだそう。彼女は自分を「ヒーラー」(癒し手)とも呼ぶ。そんな彼女は、王国シリーズで「あなたの心に王国を作りなさい」と直接的に表現した。紹介者は、よしもとばななの父、吉本隆明の心的現象論や、彼に影響を与えた三木成夫の生物学にも触れながら、「隠せるものはなにもない。みな、からだを通して表に出るのではないか」と述べる。

笑顔で身振り手振り/
真剣にメモをとる

 三冊目は、イタリアの文学者パピーニの短編。19世紀末から20世紀前半を生きた。彼は32歳で自叙伝を書くという変わり者だったそうだが、その本は「自分は救世主にはなれない」という壮大で悲観的な言葉に終わる。ここに至る、20代の気迫のある作品がとりわけ面白いそうだ。紹介者は、5分以上、切迫したムードの漂うパピーニの短編を朗読してくださった。それは激しい自己意識の表出であり、自分は自分自身と訣別したい、という詩のような文章だった。

パピーニを朗読

 四冊目は、望月通陽が絵を描き、谷川俊太郎が詩をつけた『せんはうたう』。望月さんは染色、版画、立体作品も作る多才なひと。紹介者は、「この本は、道楽です」とはじめに断る。なるほど、本が作られたプロセスは偶然がきっかけで、出版元が出している本はこれ一冊だけ、装丁は「フランス装」と呼ばれる手作業によるもの。お金も手間暇もかかっている。でも、だからこそすばらしい本ができた。箱から取り出すときにからだが震えるほど、だったと喜びを伝えてくれた。

パワーポイントの資料

 そのあとは、後半のフリートークタイム。紹介がテンポよく進んだために、90分の時間が残り、いろんなテーマの雑談がされた。アート・ギャラリーをめぐる状況、北海道のローカルな話(札幌や倶知安、寿都など)、図書館の必要性、写真からカリグラフィーまで。21時半を回って、いったん終了したが、続けて飲み物を注文し、結局、全員がそれから1時間以上、語らっていた。

フリートーク

記念撮影

 いままでで一番こぢんまりした集まりでもあり、親しく和やかな雰囲気で進んだのはよかった。みなさまと、そして、ご厚意で場所を貸してくださったエスキス・オーナーである中川夫妻の協力のおかげです。改めて感謝の気持ちを伝えたいと思います。

紹介された本たち

【書誌情報】
『森と氷河と鯨』、星野道夫、世界文化社、1996
『王国その3 ひみつの花園』、よしもとばなな、新潮社、2005
 『ヒトのからだ:生物史的考察』、三木成夫、うぶすな書院、1997
 『心とは何か:心的現象論入門』、吉本隆明、弓立社、2001
『逃げてゆく鏡』、ジョヴァンニ・パピーニ、河島英昭訳、国書刊行会、1992
『せんはうたう』、絵:望月通陽、文:谷川俊太郎、ゆめある舎、2013

追記:こちら に今回の本のカフェについて、参加者の方が書いてくださったブログ記事があります。詳細なレポートで雰囲気が伝わります。(ブログ:静寂(しじま)を待ちながら/「第3回「本のカフェ」に参加しました。」