2014年3月1日土曜日

『1984 フクシマに生まれて』レビュー

この本は、『困ってるひと』のベストセラー作家、大野更紗さんと、フクシマ論で一躍、脚光を浴びている開沼博さんのおふたりが、6人のユニークな人物と鼎談した、その書き起こし。ふたりは偶然にも、同じ1984年生まれ、福島県ご出身。それで、このタイトルになりました。

【書誌情報】『1984 フクシマに生まれて』大野更紗、開沼博、2014、講談社文庫オリジナル

大野更紗さんは、難病の当事者であり、作家。その発症以後の記録をユーモアあふれる筆致で綴った『困ってるひと』は話題を呼ぶ。いまはポプラビーチで「シャバはつらいよ」を連載中。

開沼博さんは、原発と福島をテーマに研究してきた(震災以前から)アカデミックな研究者。とくに中央と地方の関係を読み解く。著書に『フクシマの正義「日本の変わらなさ」との闘い』ほか。

(*『フクシマの正義』については、【珈琲ブレイク】においても書評を書いています。こちらを参照。)

では、引用を中心に(途中まで)内容を紹介してゆきたいと思います。まだこれからこの本を手に取るかもしれないひとたちのために……。

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最初に自己紹介を兼ねて、ふたりが対談するのですが、スタンスのちがいが際だつのはここ。

大野「私に関して言えば、学生時代からちょっと背伸びしすぎなこともやらなきゃいけなかったりしたんですね。二十二、三歳の小娘がミャンマーの民主化がこの先どうなるかを一人で論ずるとか、開沼さんの場合は二十六歳の大学院生が日本の原発の行く末を論ずるというのは、ある意味で過剰な責任だと私は思っているんです。……(中略)……なまじそれに中途半端に対応できるために、ある程度相手が期待しているレベルを瞬時に感じ取って、アウトプットで答えてしまって来たんですが、ほんとうはこんなことしちゃいけないじゃないかなとう思いを持ち続けています。」
開沼「なんでいけないんですか? 代役はいくらでもいるんだから負担だと思うならやめればいい。」
  
ここには、大きな差がある。大野更紗さんは考える、とりわけ若さゆえに、「論じ手」としてまだまだ未熟ななか、途方もなく大きな問題についてさらりと問われ、さらりと答えることのこわさ、「有名な若手だから」という理由だけでそれが平然とおこなわれてしまう社会、「意見」をどしどし発表することも、どんどん求められることも、どちらもかなり慎重にならなければならないのじゃないか……開沼さんはこの感覚をまったく共有していないかのように答える。

この後も、すれちがいが続き、大野さんが「なんの体験者にもなれない。何も代弁していないのではないか」とまで言ったあとで、「修行の旅に出なきゃいけない気がして」と結ぶ。開沼さんは、平然と、「僕の場合は認識はまったく違いますね。あえて言うならば、ずっと修行の旅には出ているつもりです。」とポジティヴィストの自信を覗かせる。

ここの箇所、大野さんは開沼さんをまばゆくもすこし気掛かりを残して眺め、開沼さんはそういう機微に無頓着であったろう、と推察する。この話題はここで打ち切られる。

◆ 1人目の「鼎談」ゲストは、川口有美子さん。「ALS」という難病を母が患ったことをきっかけに、介護を始め、それがいつの間にか社会的にも広がり、NPO法人の立ち上げ、著書の出版、介護事務所の立ち上げ、などなど、獅子奮迅の活躍をなさっている方。病気の実際から、社会運動、一個の稀有な経歴、苦難に向かうときに宗教があった方がよいか、といった幅広い話題が具体的に語られる。

◆ 2人目のゲストは、駒崎弘樹さん。NPOフローレンスを立ち上げて、病児保育の問題に切り込んだ社会起業家。「社会問題をビジネスで解決する」社会起業家のロールモデルとも呼ばれる。地道な活動を重ね、話しぶりにも実直さを感じさせるが、それでいて軽快。

駒崎「僕の活動にはOS(基本ソフト)自体を入れ替えようというインパクトはなくて、ハッキングしてバグを修正しているイメージ。ほんとうはどこかのタイミングでOS、つまり体制の切り替えに力を注がなくてはならないのかもしれないけれど、今みたいに局地戦を戦って、少しずつ制度を変革していくほうがいいのかもしれない。」

大野さんは、鼎談の後で「駒崎さんは、いわゆるNPOの人でもなく、ロビイストと呼ばれる人の枠にもとどまらない、特異的なニュータイプです。」と書き、事業の現場をもちながら政策提言をしていく、「とっても建設的な営み」だとまとめる。

◆ 3人目は医師の小鷹昌明さん。震災後、大学病院の准教授という安定したエリート職を辞して、南相馬の市立病院に移る。

小鷹「私は最近、"介護士の地産地消"を目指さないと駄目だと主張しています。」「八十歳くらいの超高齢者を六十歳くらいのちょっと元気な高齢者が支える、……(中略)……というように、元気がない人をちょっと元気な人が支えるというシステム作りをしないと、どうにもならないんじゃないかと思うんです。」

高齢者が動けずに残り、若者の去った福島は「二十年後の日本の姿」、超高齢化が進んだ未来の先取りだと小鷹さんは言う。そして、南相馬市の社会福祉については、

開沼「外から人が入ってくるということについては、もちろん努力はするけれど期待はしないと?」
小鷹「十分な期待はしていません。……(中略)……よほどのことがなければ、外から来る人にどうにかしてもらおうなどというのは無理だと私は結論づけています。」

ふつうなら、コミュニティ作りと呼ばれるような活動にまで手を広げる小鷹医師。ひとりひとりの市民、そしてその支援者たちとも向き合っていく。

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ゲストは6人いるので、まだ半分なのですが、ブログの記事の長さとしてはこんなところ、書き手の息継ぎ、読み手のリズムも考慮して、ここでまとめに入ります。

主たるおふたり(大野さん、開沼さん)がわかりやすい言葉遣いを心がけていらっしゃることも含め、全編、とても楽しく読みやすい本になっていると思います。話題の紹介の「浅さと深さ」、つっこみ方の温度(熱しすぎない)が心地よく、読者を置いてきぼりにしないで、すいすいと読ませます。それでいて知識も感性も刺激される、十分に「本として」出来上がった作品だと思います。(編集者の方もすばらしいのかも!)