2013年1月11日金曜日

DVDリッピングの違法化について、解説とその後


昨年、話題になった「DVDのリッピング違法化」について、かんたんな解説を試みるとともに、その後のDVDの売れ行きが発表されたので、追ってみよう。

<DVDのリッピング違法化とは>

2012年10月1日から、改正著作権法の一部施行により、「DVDのリッピング」が違法化された。「リッピング」とは、DVDやCDのデータをパソコンに「取り込む」行為を指す。これが、違法化されて話題を呼んだ。その結果、次に挙げること、すべてが違法となった。

・レンタルしたDVDの複製を作る(いわゆる「空のDVDに焼く」)こと。
・購入したDVDの複製を作って、バックアップをとること。
・購入したDVDを(パソコン経由で)スマートフォンやタブレット(iPhoneやiPadなど)に取り込んで、視聴すること。

ここで、ぼくは「あれ?」と思ったのだが、禁止されたのは「レンタル」(TSUTAYAやゲオなど……)したDVDを「取り込む」ことだけでなく、「自分で購入した」DVDを「取り込む」ことも、である。いままでなら、「私的複製」は、違法でなかった。私的な範囲なら許されていたのだ。まして、自分で購入したDVDを自分のiPadで見ることすらいけない、と言われると、なにか常識にそぐわない感じがする。

<CDのリッピングはOK>

実際、CDは、いまだに私的複製が許可されていて、レンタル店で借りてきたCDを「リッピング」してパソコンで聴いても、空のCDに焼いても、違法ではない。

どうして、DVDだけがこのような厳しい取り扱いになったのか、なぜCDはよいのか、常識的には、理解しがたい。実は、今回、著作権法を改正した文科省の議論では、技術的な観点ばかりが問題になったようである。そのため、ぼくらが実際に営んでいる音楽・映像ライフとはかけ離れた、実態とは乖離した立法になった、と言って良さそうだ。

<法制化の背景——「CSS」についての技術的な議論>

違法化の論拠について、こちらに参考記事がある。


この記事によると、

改正著作権法の一部が、10月1日に施行された。今回の改正では違法ダウンロード行為に対する罰則(違法ダウンロード刑罰化)が加えられたほか、DVDに用いられる「CSS」などの暗号型技術を回避して行う複製が違法(DVDリッピング規制)となった。

ということだ。

ここで登場する「CSS」は、(詳しくは、ぼくもよくわからないのだが)コピーガード機能ではなく、アクセスコントロールと呼ばれる機能で、そもそもは複製防止のために組み込まれているのではないようだ。そして、この「CSS」は、市販のDVDには含まれており、市販のCDにはほとんど含まれていないらしい。そして、CSSの有無にかかわらず、パソコンでのリッピングはかんたんにできるのが現状である。しかし、法制化に当たっては、「CSS」を回避してリッピングすることを「違法」とするか、「適法」とするかが論点になり、結局、違法となった。こうして、主として技術的な観点から「CSS」について議論した結果、「購入したDVDすら取り込めず」、「レンタルしたCDは取り込んでよい」、というユーザーにとっては、奇妙な結果になったようだ。

<その結果、DVDの売れ行きは……>

当初から、DVDのリッピング禁止には、音楽・映像産業を萎縮させるのではないか、という危惧が抱かれていた。つまり、「リッピングができないのなら、買おうとは思わない。」という風に消費者のDVD離れが進むのではないか、ということだ。

それで、実際にどうなったか。こちらに、2012年1月〜11月のDVD(およびブルーレイ)の売り上げの一覧がある。


この表によると、2012年の11月のDVD販売金額は、前年同月比85.8%(市販) 、78.1%(レンタル用)となっており、DVD全体では82.6%となっている。11月の結果は、統計の出ていない12月を除くと、1月に次いで低い値となっている。10月の売れ行きは、前年並みなので、一概には言えないが、「リッピングの違法化」によって、DVDの購買意欲は低下しているのかもしれない。

ともあれ、2012年10月1日の施行から、ふた月分の結果しか出ていないし、具体的にどの行為が違法化されたのか、まだ徐々に周知されている段階だろうから、これから先を見守っていかないと、はっきりした結論は出せない。

<おわりに——そして、今後のこと>

まず、ユーザーの視点から言えば、レンタルしたDVDをコピーできなくなるばかりか、購入したDVDすら取り込めないのは、かなり苦しい。映像をモバイル端末で持ち運べない。また、DVD販売・レンタル店にとっても、先行きも暗いだろう。さらに、長期的に見れば、法律が「守ろう」としている著作権者にとっても、コンテンツが売れなくなって不利益になるという結果をもたらすかもしれない。

そして、今後のこと。——映像の「配信」については、リッピングは問題にならない。直接、データが端末に供給されるからだ。今後は、音楽・映像業界は、パッケージ(CDやDVD)を店舗で販売する形態を取らず、コンテンツ(音楽や映像)そのものを配信する方向を取るようになるのではないだろうか。